遺贈対象財産の成年後見人による売却

遺贈対象となっていた財産を成年後見人が売却してしまったことにより、遺贈を受けられなくなってしまったケースです。

遺贈の目的とされた権利が、遺言の後から遺言者の死亡までの間に、遺言者の意思によらず相続財産に属さなくなる例は、強制競売等が考えられるところ、民法996条ただし書が適用されるときとは、このような場合にもなお、遺言者が、自身の相続人等に対し、当該目的物を再取得して受贈者に移転させたり、価額を弁償させたりするような遺贈義務を課すことを相当とするだけの強い意思が認められるときでなければならないというべきである。
(中略)
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属さなかったときは、その効力を生じないのが原則(民法996条本文)であるから、民法999条1項が、「第三者に対して償金を請求する権利を有するとき」と定めているのは、遺言者がその死亡の時に償金請求権を有する場合に関する例外であると解するべきであって、遺言者が死亡した時点で償金請求権を有しないときは、同項によって遺言者の意思が推定される場合に当たらないといわなければならないからである。このように、遺言者の死亡の際に償金請求権が存在しない場合には、民法999条1項の推定が働く余地はないから、民法1001条2項の推定も適用される余地はないといわなければならない。
(中略)
受遺者は、将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すら持ってはいないから

裁判所HP 平成30年9月27日 広島高裁

 

参考条文
民法
(相続財産に属しない権利の遺贈)
第九百九十六条 遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。

第九百九十七条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(遺贈の物上代位)
第九百九十九条 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2 遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。

(債権の遺贈の物上代位)
第千一条 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
2 金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。